賃貸市況・保有判断|情報基準日:2026年9月19日

東京23区の家賃、2030年までに11%上昇予測。地域差と利回りから読む

三菱UFJ信託銀行のMUFG不動産研究所は、東京23区の賃貸マンション賃料が2030年までの5年間で11%上がると予測しました。ただし、レポートの結論は「賃料が上がるから安心して投資できる」というものではありません。金利や投資家の要求利回りが上昇したとき、賃料の伸びだけでは物件価格を支えきれない可能性にも言及しています。

その読み方を具体的にするには、23区全体の予測と、地域ごとの成約賃料を分けて見る必要があります。本記事ではREINSの賃貸マンションの統計を使い、エリア差と保有・売却判断へのつながりを考えます。

三菱UFJのレポートが示したこと

対象は、2026年9月18日付「東京23区賃貸マンションの賃料予想」(不動産マーケットリサーチレポートVol.315、執筆:舩窪芳和氏)です。MUFG不動産研究所は、三菱UFJ信託銀行が不動産分野の調査・研究を行う際の呼称です。

レポートは、賃貸マンションへの投資意欲が強い背景に賃料成長への期待があると捉え、需要と供給の条件を組み込んだモデルで2030年までの賃料を予測しています。対象は18㎡以上100㎡未満の各部屋タイプを含む東京23区全体の指数です。ワンルームだけの予測でも、各区に一律11%を割り当てた予測でもありません。

また、レポート末尾には執筆者個人の見解であり、同行の統一的な公式見解ではない旨が記載されています。本記事では、同レポートの予測とSmart Selectの考察を分けて記載します。

出典:MUFG不動産研究所、Vol.315、1・3・5頁。本文・数値は資料本文を確認。元資料の図表は転載していません。

11%上昇を支えるのは、賃金・人口・建築費の想定

予測の仕組みは、借り手が払える家賃、住む人の数、住宅を供給する費用、それまでの賃料の動きを組み合わせるものです。主な想定は次の通りです。

要因レポートの想定読み取るポイント
東京都の名目賃金予想期間平均で年率約+2%家計の家賃負担力が伸びる前提
東京23区の人口年率約+0.3%居住需要を支える前提
東京都の建築費予想期間平均で年率約+5%後半に上昇率が緩やかになる想定

賃金上昇などの条件が変われば、予測の受け止め方も変わります。建築費が上がった分を、そのまま借り手へ転嫁できるとは限りません。オーナーが見たいのは、供給側の値上げ圧力と、入居者の支払能力が両立するかです。

図表では2026年以降が予想値です。本記事の「5年間」は同レポートの2030年までの予測期間を指し、REINSの2026年4~6月の賃料から2031年まで11%上がるという意味ではありません。

出典:同レポート2~4頁

REINSで見ると、同じ23区でも賃料水準は違う

東日本不動産流通機構の「首都圏賃貸居住用物件の取引動向」から、2026年4~6月の賃貸マンション成約データを確認します。以下は同資料1頁の「マンション」の値で、売買価格やアパートの数値は混ぜていません。

地域成約件数平均賃料/月平均面積㎡単価
東京23区18,218件13.2万円33.96㎡3,899円
港区695件24.6万円41.00㎡5,994円
千代田区204件20.7万円37.21㎡5,549円
渋谷区779件17.8万円33.99㎡5,227円
中央区523件18.7万円37.51㎡4,989円
新宿区1,283件13.4万円29.66㎡4,518円
世田谷区1,551件13.1万円34.97㎡3,752円
板橋区968件10.4万円32.53㎡3,198円
足立区579件10.3万円37.18㎡2,780円
葛飾区421件10.3万円38.15㎡2,712円

出典:東日本不動産流通機構「首都圏賃貸居住用物件の取引動向(2026年4~6月)」2026年7月17日発表、1頁。23区全体と9区を抜粋。㎡単価は資料記載値を使用し、丸めた平均賃料÷平均面積では再計算していません。

この表から分かるのは、同じ23区でも家賃の水準と成約物件の広さに差があることです。例えば港区と足立区では、月額家賃だけでなく㎡単価も違います。23区全体の平均賃料を、そのまま自分の所有物件の相場として使うのは適切ではありません。

ただし、高い地域ほど今後も大きく上がる、安い地域は値上がり余地が大きい、とはこの表だけでは言えません。これは1四半期の水準比較です。築年、駅距離、設備、部屋タイプなども異なるため、㎡単価でそろえても物件条件の差は残ります。

過去の賃貸統計と比較するときの注意点

三菱UFJの予測にREINSを重ねる意義は、全体の予測を個別地域へ近づけて検討できることです。ただし、レポートが使用する賃料指数と、REINSに登録された成約物件の平均値は同じ統計ではありません。両者をそのまま一本の時系列としてつなぐことはできません。

過去との比較では、まず同じ四半期・地域・物件種別をそろえます。そのうえで賃料だけでなく成約件数、面積、築年などの構成変化を確認する必要があります。広い物件や築浅物件の成約比率が高まれば、同じ物件の家賃が変わらなくても平均賃料が上がる可能性があるためです。

本記事では2021~2025年のREINS賃貸統計との数値比較は掲載していません。確認できた2026年4~6月の資料で地域別の水準を比較しており、地域別の過去上昇率や、11%予測の的中度を検証したものではありません。

家賃が上がっても、物件価格が上がるとは限らない

レポートが重視するのは、賃料成長がキャップレートの上昇をどこまで吸収できるかです。キャップレートは、不動産の純収益から価格を考える際の還元利回りです。直接還元法の関係は、物件価格=年間純収益(NOI)÷キャップレートと表せます。

同じ純収益でも、買い手が求める利回りが高くなれば、この式で求める価格は下がります。一方、純収益が増えれば価格を支える方向に働きます。キャップレートは借入金利とは別の数値で、政策金利やローン金利と同じ幅で動くものではありません。

レポートは、東京23区・城南エリアのワンルームマンションの期待キャップレート3.6%を使い、11%の成長が相殺する上昇幅を約0.4ポイントと試算しています。計算は3.6%×11%=0.396ポイントです。これは23区のあらゆる物件の利回りを3.6%と置く意味ではありません。

仕組みを確かめるため、以下では年間NOIが108万円から119.88万円へ11%増える仮定の比較を示します。家賃が11%上がればNOIも11%上がると断定したものではありません。

仮定の直接還元価格。基準はNOI108万円・利回り3.6%で3,000万円。NOIが11%増えると、利回り3.6%で3,330万円、4.0%で2,997万円、4.2%で約2,854万円
仮定年間NOIキャップレート直接還元価格
比較の基準108万円3.6%3,000万円
NOI+11%、利回り一定119.88万円3.6%3,330万円
NOI+11%、利回り+0.4ポイント119.88万円4.0%2,997万円
NOI+11%、利回り+0.6ポイント119.88万円4.2%約2,854万円

図表:Smart Select作成。NOI÷利回りによる仮定計算、万円単位で四捨五入。市場価格の予測・査定ではありません。NOIは運営費用控除後・借入返済前の純収益。売却時の税・費用や残債を差し引いた手取り額でもありません。レポートの比較の出典はVol.315、4頁・注9

実際には管理・修繕などの負担や空室も変わります。募集時に想定した家賃が既存契約へ直ちに反映されるとも限りません。オーナーの返済後の手残りは、純収益に加えて借入条件にも左右されます。

Smart Selectの考察:需要が向かう先をどう読むか

ここからはSmart Selectの考察です。23区全体の賃料成長は市場を見るうえで参考になりますが、保有判断に必要なのは「どの入居者が、どの場所で、いくらなら住み続けられるか」です。

購入予算が厳しくなった人は、どこへ向かうか

購入費用や返済負担が重くなれば、購入を先送りして賃貸に住み続ける人が増える可能性があります。一方、購入を続ける人が郊外や築古へ選択肢を広げることも考えられます。これは需要移動の仮説であり、今回のREINSの表がその人数や流れを実証しているわけではありません。

賃貸でも予算に上限があります。都心の家賃上昇が続けば、通勤時間、広さ、築年のどこかで条件を調整する動きが考えられます。そこで注目したいのは、単に家賃が安い地域ではなく、仕事先へのアクセスと住居費のバランスが取れる駅や物件です。ただし、周辺供給が多い、入居者の所得が伸びない、といった条件では家賃を上げにくい可能性もあります。

同じエリアでも、保有を続けられる条件は違う

家賃が上がる市場でも、返済や修繕の負担が先に増えれば、オーナーの資金繰りは厳しくなります。資金余力のある買い手には取得機会が生じる可能性がありますが、売り急ぎ物件が増える、価格が一律に下がるとまでは本資料から判断できません。

保有を続ける判断では、将来の値上げを織り込まなくても資金が回るかを確かめ、そのうえで地域の賃料成長を検討したいところです。売却を検討する場合も、家賃の上昇期待だけで希望価格を決めず、実際の純収益と買い手の評価条件を合わせて考えます。

オーナーは自分の物件の数字に置き換える

まず、同じ駅圏・近い面積・築年・駅距離の賃貸成約事例を管理会社に確認し、現在の契約賃料と比較します。募集賃料しか分からない場合は、成約賃料と区別して扱います。

次に、家賃据え置きの場合と、退去後などに増額できた場合を分け、空室期間・募集費用・管理費・修繕負担・返済を反映します。売却との比較では、査定額から残債と売却費用、税負担を差し引いた手取りを確認します。23区全体の11%を自動入力するより、増額できない場合も含めて判断することが、このレポートを実務に生かす方法です。

売却12

家賃が上がったマンションは持つか売るか。収益価格と売却後の資金活用で比較する

家賃上昇で純収益が増えれば、保有中のキャッシュフローと収益還元法による評価額の両方が改善します。持ち続ける価値が高まる一方、売却して得た資金を他物件の繰上返済や買換えの頭金へ回す選択肢も生まれます。判断する対象は、一室の毎月収支から、保有資産全体の借入と手残りへ広がります。

出典・参考資料

資料本文の確認日:2026年9月19日。予測、単一期間の成約実績、仮定計算、編集部の考察はそれぞれ対象と意味が異なります。