売却の税金は、売値やローン返済後の手残りにそのまま税率を掛ける計算ではありません。

まず取得費と譲渡費用を確認し、売却年の1月1日時点で所有期間を判定します。

税金と手残りは、引くものが違う
  1. 税額の計算売却価格 − 取得費 − 譲渡費用を基に計算。
  2. 所有期間の判定売却年1月1日時点で5年超かを確認。
  3. 手残りの計算売却代金から残債・現金で払う売却費用・税金を引く。

建物の取得費は減価償却後の金額です。ローン残債は譲渡所得から差し引けません。

投資用マンションの譲渡所得税とは

土地や建物を売却して利益が生じた場合、その利益は「譲渡所得」として課税対象になります。土地・建物の譲渡所得は、給与所得などとは原則として分けて計算する分離課税です。

課税譲渡所得 = 譲渡価額 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除額

図が収まらない場合は、図の中を左右にスクロールできます譲渡所得税の計算

一次情報:国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

売却益が出ても、残債を返すと手元に残らない?

税金を計算する利益と、口座に残るお金は別です。

  • 譲渡所得:売却収入から取得費と譲渡費用を引き、適用できる特別控除があれば差し引く。
  • 売却後の現金:売却代金から残債返済・売却費用・税金などを引く。

建物の取得費は減価償却を反映します。購入価格と売却価格の単純な差額だけでは税額を判断できず、ローン残債を返す金額がそのまま譲渡所得の控除になるわけでもありません。国税庁の計算方法に沿って、取得費資料と返済予定表を別に用意してください。

購入から売却までの投資全体の損益は、さらに購入時の自己資金や保有中の収支を合わせて確認します。

税率は「5年」を境に大きく変わる

投資用マンションの売却では、所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得に分かれます。

区分判定所得税住民税復興特別所得税を含む概算
長期譲渡所得売却年1月1日時点で所有期間5年超15%5%約20.315%
短期譲渡所得売却年1月1日時点で所有期間5年以下30%9%約39.63%

2026年中の売却であれば、国税庁は2020年12月31日以前に取得した土地・建物を長期、2021年1月1日以後に取得した土地・建物を短期とする例を示しています。

図が収まらない場合は、図の中を左右にスクロールできます所有期間5年の判定

一次情報:国税庁 No.3208 長期譲渡所得の税額の計算/No.3211 短期譲渡所得の税額の計算

取得費は「購入価格そのまま」ではない

取得費には、土地・建物の購入代金や購入手数料などが含まれます。ただし建物については、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて取得費を計算します。

土地は原則として減価償却しませんが、建物は減価償却するため、保有期間が長くなるほど売却時の建物取得費が低くなることがあります。

賃貸に使った建物の減価償却は、何を合計する?

賃貸など事業に使った建物は、取得してから売却するまでの各年の減価償却費を合計します。 国税庁は、必要経費にしていない年の分も合計する扱いを示しています。過去の確定申告書、青色申告決算書・収支内訳書の減価償却欄と、購入時の土地・建物内訳を照合してください。

自宅など事業に使っていなかった建物は計算方法が異なります。自宅向けの減価償却の式を、賃貸用マンションへそのまま流用しないでください。自宅から賃貸へ用途を変えた場合や、資料が欠ける場合は、使用履歴と資料を税理士等へ示して確認します。国税庁 No.3261 建物の取得費の計算で用途別の扱いを確認できます。

図が収まらない場合は、図の中を左右にスクロールできます土地と建物の取得費の違い

一次情報:国税庁 No.3252 取得費となるもの/No.3261 建物の取得費の計算

「節税できた=得をした」とは限らない

不動産投資では、減価償却費によって不動産所得が小さくなり、条件によって所得税・住民税の負担が軽くなる場合があります。

一方、売却時には減価償却した分だけ建物の取得費が低くなり、譲渡所得が増える可能性があります。

図が収まらない場合は、図の中を左右にスクロールできます保有中の税効果と売却時の税負担

したがって、節税額だけではなく、保有期間中のキャッシュフローと売却時の税金まで一体で確認が必要です。

具体例|売却価格3,800万円の場合

以下は仕組みを理解するための単純化した例です。

  • 購入価格:3,500万円(土地・建物の合計)
  • 売却価格:3,800万円
  • 累計減価償却:500万円(建物部分のみ)
  • 税務上の譲渡費用:130万円
  • その他の取得費:簡略化のため0円
  • 特別控除:0円(説明用の仮定)

取得費を単純化して3,000万円とすると、

3,800万円 − 3,000万円 − 130万円 = 670万円

この670万円が課税譲渡所得となる例です。

  • 長期譲渡の場合:670万円 × 20.315% = 1,361,105円 → 約136.1万円
  • 短期譲渡の場合:670万円 × 39.63% = 2,655,210円 → 約265.5万円
同じ譲渡所得でも、税額は変わる
長期譲渡136.1万円
短期譲渡265.5万円

譲渡所得670万円の仮定例。税率20.315%・39.63%で計算した概算税額です。特例等は反映していません。棒は0から同じ尺度で比較。

同じ譲渡所得でも、長期・短期の違いだけで約129.4万円の差が生じる例です。計算途中では丸めず、表示時に0.1万円単位で四捨五入しています。実際の税額は取得費、譲渡費用、特別控除、取得日、売却日等により変わります。

この例の130万円は、税務上の譲渡費用だけです。ローン残債、抵当権抹消費用、管理契約の解約費用などの現金支出は、売却後の手取りには反映しますが、課税譲渡所得から自動的に差し引けません。消費税の課税関係もこの例には含めていません。

譲渡費用にできるもの

譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用です。国税庁は、代表例として次のような費用を挙げています。

  • 売却時の仲介手数料
  • 売買契約書の印紙代
  • 売却のための測量費
  • 一定の立退料
  • 一定の建物取壊し費用

一方、通常の修繕費や固定資産税など、その資産の維持・管理のための費用は譲渡費用には含まれません。

一次情報:国税庁 No.3255 譲渡費用となるもの

取得費が分からない場合は要注意

取得費が分からない場合などには、売却価格の5%相当額を概算取得費とすることができます。

例えば3,000万円で売却した場合、5%は150万円です。実際の取得費より大幅に低い金額で計算されると、課税譲渡所得が大きくなる可能性があります。

購入時の売買契約書や費用の領収書は、売却まで保管しておくことが重要です。

一次情報:国税庁 No.3258 取得費が分からないとき

投資用マンションの売却損は給与所得と相殺できる?

土地・建物の売却で生じた損失は、他の土地・建物の譲渡所得から控除できる場合がありますが、控除しきれない損失を給与所得や事業所得など他の所得と損益通算することは原則できません。

これは、保有中の不動産所得が赤字になった場合の損益通算とは別のルールです。

図が収まらない場合は、図の中を左右にスクロールできます不動産所得の赤字と売却損の違い

一次情報:国税庁 No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合

売却前に確認する7項目

  1. 現在の査定価格
  2. ローン残債
  3. 売却費用
  4. 土地・建物の取得費
  5. 累計減価償却額
  6. 長期譲渡か短期譲渡か
  7. 譲渡所得税

最終的には、税務上の譲渡所得とは別に、次のような「売却後の手取り」を確認します。

売却後の手取り = 売却価格 − ローン残債 − 売却時の現金支出 − 譲渡所得税等

税務上の譲渡費用と、決済時に支払う現金支出は別表で管理します。残債やその他の現金支出を、課税譲渡所得の計算へ重ねて差し引かないようにしてください。

売却価格が分からない場合は査定価格を確認する

譲渡所得税を計算しても、現在いくらで売却できるか分からなければ最終的な手取りは判断できません。

売却を決める前でも査定価格を確認しておけば、ローン残債、税金、売却後の手取りを具体的に比較できます。

相談先は、対応できる内容・費用・査定根拠を比べて選んでください。

専門家への確認を推奨するケース

次のような場合は、簡易計算だけで判断せず、税務署や税理士等への確認を推奨します。

  • 購入時の土地・建物価格が分からない
  • 購入時の契約書がない
  • 大規模な設備更新や改良をしている
  • 相続・贈与で取得した
  • 自宅として利用していた期間がある
  • 特例が使える可能性がある
  • 複数の不動産を同じ年に売却する

相続や贈与で取得した土地・建物については、取得費や取得時期を被相続人・贈与者から引き継ぐのが原則です。

一次情報:国税庁 No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

売却時に用意しておきたい資料

購入時

  • 売買契約書
  • 購入時費用の領収書
  • 土地・建物価格を確認できる資料

売却時

  • 売買契約書
  • 仲介手数料等の領収書
  • その他売却費用が確認できる資料

確定申告では、譲渡所得の内訳書など必要書類を確認します。

よくある質問

Q. 購入から5年経てば必ず長期譲渡ですか?

いいえ。売却年の1月1日時点で所有期間が5年を超えているかで判定します。

Q. 投資用マンションでも3,000万円特別控除は使えますか?

一般的な投資用マンションについて、居住用財産の3,000万円特別控除を前提に計算すべきではありません。自分が住んでいた住宅など、居住用財産の適用要件を満たすか個別に確認が必要です。

Q. 購入価格より安く売ったら譲渡所得税はかかりませんか?

必ずしもそうとは限りません。建物の取得費は減価償却を反映して計算するため、購入価格より安い売却でも税務上の譲渡益が生じる可能性があります。

Q. ローン残債は譲渡所得から差し引けますか?

ローン残債を取得費や譲渡費用として差し引く仕組みではありません。ただし、売却後の実際の手取りを計算するうえでは重要です。

まとめ

投資用マンションを売却するときは、売却価格だけで判断せず、取得費、減価償却、譲渡費用、所有期間、譲渡所得税、ローン残債まで確認が必要です。

特に、「保有中に節税できた」ことと「投資全体で利益が残った」ことは同じではありません。

保有期間中のキャッシュフローと税効果、売却時の譲渡所得税までまとめて確認したうえで判断しましょう。現金支出と譲渡費用を分ける実務手順は投資用マンション売却チェックリスト、課税事業者の建物売却は消費税・インボイスの記事で確認できます。

次にすること

譲渡税と残債を入れ、売却後の手残りを確認する

売却価格だけで判断せず、残債・売却費用・取得条件を入力して税引後の概算を比較します。

保有中・売却を考えている方優先

今売る手残りと、保有を続ける場合を比べる

売却価格の幅、残債、家賃・費用を入力し、今・5年後・10年後を比較します。

売る・持つを比較する

登録不要で試算できます。グラフは税引前総手残りの比較です。将来の売却価格・家賃等は入力した仮定に基づきます。