結論・この記事でわかること
不動産投資は、表面利回りや「月々の収支」だけでは判断できません。購入時の自己資金、保有中の年間キャッシュフロー(CF)、売却後の手取りまでを同じ前提で計算し、標準・悪化・ストレスの3ケースを比べる必要があります。
この記事では、営業資料の数字を自分で再計算する順序、必要な資料、無料Excelの使い分けを説明します。結論として、次の3点を確認できない段階では契約を急がないことが重要です。
- 悪化ケースでも家計からの持ち出しに耐えられるか
- 売却予定年の残債と売却費用を差し引いて手元にいくら残るか
- 営業資料の入力値を契約書、公的情報、管理資料で裏付けられるか
シミュレーションに必要な入力項目
入力値は、物件・運営・ローン・売却/税の4群に分けます。同じ項目を別の章で再説明せず、ここを入力項目の一覧として使います。
物件
- 物件価格、建物・土地の内訳、購入予定日
- 購入諸費用(仲介、登記、融資、税、保険、清算金など)
- 現行賃貸借契約、専有面積、築年、構造、所在地
運営
- 満室時家賃、稼働率、滞納・フリーレント
- 管理費、修繕積立金、賃貸管理手数料、固定資産税・都市計画税、保険
- 原状回復、入居募集、設備交換の想定時期と金額
- 管理費・修繕積立金の増額予定、一時金
ローン
- 借入額、金利、金利タイプ、返済期間、返済方式
- 毎年の元本返済額と利息、売却予定年の残債
- 金利・返済額の見直し条件、繰上返済・一括返済の手数料
売却・税
- 売却予定年、想定売却価格と査定根拠
- 仲介手数料、契約・登記・修繕などの売却費用
- 取得費、減価償却、譲渡費用、所有期間
- 不動産所得と譲渡所得の税額(税理士等に確認した金額)
税務上の利益と現金収支は別です。ローン元本返済は現金が出ても、通常は不動産所得の必要経費ではありません。一方、修繕費と資本的支出、修繕積立金の必要経費算入、売却時の取得費・譲渡費用は条件で扱いが変わります。税効果は年間CFと混ぜず、別欄で確認します。
年間CFの計算
年間CFは、収入から物件運営費とローン返済を順に差し引きます。
STEP 1|満室時年間家賃を出す
満室時年間家賃=月額家賃×12
STEP 2|実効家賃収入を出す
実効家賃収入=満室時年間家賃×稼働率-滞納等
稼働率100%だけでなく、募集期間を含む実績から前提を置きます。
STEP 3|NOIを出す
NOI=実効家賃収入-運営費
運営費には管理費、修繕積立金、賃貸管理、税、保険、退去・修繕等を年額で入れます。ここではローン返済を差し引きません。
STEP 4|税引前CFを出す
税引前CF=NOI-年間元利返済額-臨時支出
マイナスなら、その年は給与や預金から持ち出す金額です。元本と利息は返済予定表から分けて記録します。
STEP 5|税効果を別計算する
税引後CF=税引前CF+還付等-追加納税等
所得、減価償却、他の所得との関係で結果が変わるため、「必ず節税できる」とは判断できません。税額は税理士等に確認した値を入力します。
標準・悪化・ストレスの3ケース
1つの前提だけでなく、家賃・稼働率・運営費・金利・売却価格を同時に変えます。以下は計算方法を示す仮定例であり、特定物件の将来収益を示すものではありません。
共通仮定:物件価格3,500万円、借入額3,600万円、35年元利均等、標準家賃月13万円。
この例では、標準ケースでも持ち出しが発生します。重要なのは仮定値そのものではなく、複数条件が同時に悪化したときの年間赤字、累積赤字、最低手元資金を確認することです。実際の変動金利は契約上の見直し方法に従って返済予定表を作り直します。
売却時手取りと投資全体損益
出口では、売却価格から残債だけを引かず、売却費用と税金も反映します。
投資全体損益=売却後手取り+保有中の累積税引後CF-購入時自己資金
売却価格は1本に固定せず、複数の価格と売却時期で比較します。税金は「売却価格×税率」ではなく、取得費、減価償却、譲渡費用、所有期間等を反映して確認します。元本割れ、売却期間の長期化、残債割れの可能性も見ます。
営業資料で確認する資料・質問
次の資料を受け取り、営業担当者の回答と入力値を照合します。
- 売買契約書案、重要事項説明書、諸費用見積書
- 賃貸借契約書、レントロール、周辺の募集・成約事例
- 管理規約、長期修繕計画、重要事項調査報告書、総会議事録
- 融資条件書、金銭消費貸借契約書案、返済予定表
- 固定資産税等の資料、保険見積書、売却査定の根拠資料
質問
- 想定家賃は現契約か募集賃料か。類似成約事例はあるか
- 稼働率は何年分、どの地域・物件タイプの実績か。募集期間を含むか
- 管理費・修繕積立金の増額、一時金、専有部修繕を反映したか
- 金利上昇時の返済額と見直し条件を反映したか
- 売却価格の根拠、売却期間、費用、残債、税金を反映したか
- 標準以外のケースと、最も資金が減る年を示せるか
口頭説明だけでなく、根拠資料の該当箇所と計算式を確認します。不明な入力値は楽観値で埋めず、「未確認」として判断を保留します。
無料Excelの使い方
簡易版
初回確認用です。物件価格、家賃、稼働率、運営費、借入条件、売却条件を入力し、3ケースの年間CFと売却後手取りを比較します。営業資料の前提に大きな抜けがないかを短時間で確認します。
詳細版
購入年から売却年まで年ごとに入力します。家賃下落、金利変更、退去、設備交換、修繕積立金増額、減価償却、残債、税額を反映し、累積CFと最低手元資金を確認します。
入力手順
STEP 1|黄色の入力セルへ営業資料の数字を転記
STEP 2|契約書・公的情報・管理資料で出典を記録
STEP 3|標準・悪化・ストレスの前提を設定
STEP 4|年間CF、累積CF、売却後手取り、投資全体損益を確認
STEP 5|未確認項目を質問リストへ戻す
Excelは判断を補助する試算です。将来の収益や税額を保証するものではありません。税務・法務・融資条件は専門家と契約当事者へ確認してください。
FAQ
表面利回りが高ければ収支も良いですか?
必ずしもそうではありません。空室、運営費、修繕、融資、売却を反映すると結果は変わります。名称ではなく計算式と入力値を確認してください。
空室率は何%で置けばよいですか?
全国一律ではなく、同じ地域、物件タイプ、築年、賃料帯の実績や募集状況を基に置きます。標準値に加え、長期空室を含むストレスケースも確認します。
税引前CFが赤字でも元本が減るので問題ありませんか?
元本返済で負債は減りますが、現金持ち出しに耐えられるか、売却後手取りで回収できるかは別問題です。流動性と出口を確認します。
節税効果を収益として見込んでよいですか?
所得や減価償却等で変わるため、確定的には見込めません。税効果がなくても家計が耐えられるかを確認し、税額は専門家へ相談してください。
まとめ
判断に使う数字は、表面利回りではなく、購入時自己資金、年間・累積CF、売却後手取り、投資全体損益です。入力項目を4群に分け、3ケースで再計算し、根拠資料と照合してください。標準ケースだけが成り立つ提案や、売却費用・税金を含まない提案は慎重に検証します。