不動産投資の「節税」は、支払ったお金がそのまま戻ってくる仕組みではありません。
不動産所得の計算上、減価償却費や支払利息、管理費、固定資産税など一定の必要経費を計上し、不動産所得が赤字になった場合に、一定の範囲で給与所得などと損益通算することで課税所得が下がり、所得税・住民税の負担が軽くなる場合があります。
ただし、節税額と投資利益は別です。 現金の持ち出し、損益通算できない部分、売却時の譲渡所得税、減価償却による取得費の低下まで確認しなければ、投資全体で得かどうかは判断できません。
所得税・住民税はどう決まる?
会社員の税金を理解するときは、まず「年収」と「課税所得」を分けます。
給与収入(額面年収)から給与所得控除を差し引いて給与所得を計算し、そこから所得控除などを反映して課税所得を求めます。所得税は、この課税所得に税率を適用して計算します。
2026年分では、給与収入850万円以上の給与所得控除は195万円が上限です。ただし、850万円を超えたから不動産投資をするべき、という意味ではありません。
住民税は所得税と控除額や計算方法が一部異なり、所得割は標準税率として合計10%を基本に計算されます。
一次情報:国税庁|給与所得者と税
累進課税|年収ではなく課税所得で税率が変わる
所得税は、課税所得が増えるほど高い税率帯が適用される累進課税です。
| 課税所得 | 所得税率 |
|---|---|
| 1,000円~194.9万円 | 5% |
| 195万円~329.9万円 | 10% |
| 330万円~694.9万円 | 20% |
| 695万円~899.9万円 | 23% |
| 900万円~1,799.9万円 | 33% |
| 1,800万円~3,999.9万円 | 40% |
| 4,000万円以上 | 45% |
33%の税率帯に入ったからといって、課税所得全額に33%がかかるわけではありません。速算表の控除額を使って計算します。
一次情報:国税庁 No.2260|所得税の税率
総合課税と分離課税の違い
不動産投資では、保有中の不動産所得と売却時の譲渡所得を同じ税金として扱わないことが重要です。
給与所得や不動産所得などは総合課税の対象となり、不動産所得の赤字は一定の条件で給与所得などとの損益通算対象になります。
一方、土地・建物を売却したときの譲渡所得は原則として申告分離課税です。売却時の税金については、投資用マンションの譲渡所得税の記事で詳しく解説しています。
一次情報:国税庁 No.2220|総合課税制度/国税庁 No.2240|申告分離課税制度
不動産投資で節税が生じる仕組み
不動産所得は、家賃などの総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。
不動産所得 = 家賃等の総収入金額 - 必要経費
必要経費には、条件に応じて次のようなものがあります。
- 減価償却費
- 借入金利息
- 管理費・賃貸管理手数料
- 修繕費
- 業務用部分の固定資産税
- 一定の保険料など
所得税・住民税そのものは必要経費にはなりません。
減価償却は、建物などの取得価額を耐用年数に応じて費用化する会計・税務上の処理です。現金がその年に出ていなくても必要経費となるため、不動産所得を押し下げる要因になります。
一次情報:国税庁 No.1370|不動産収入を受け取ったとき/国税庁 No.2210|必要経費の知識
不動産所得の赤字を全部給与所得と相殺できるわけではない
不動産所得が赤字でも、その全額を給与所得などと損益通算できるとは限りません。
代表的な注意点が、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する損失部分です。この部分は給与所得などとの損益通算の対象外となります。
諸費用ローンを利用している場合も、土地取得・建物取得・諸費用に対応する借入を区別して確認する必要があります。
一次情報:国税庁 No.1391|不動産所得が赤字のときの他の所得との通算/国税庁 第41条の4|不動産所得に係る損益通算の特例
「実際に減る税金」と「減らない支出」を分ける
節税の説明を受けたときは、税金と現金支出を混ぜないことが重要です。
減る可能性があるもの
- 所得税
- 翌年度の住民税所得割
税効果があっても支払いが必要なもの
- ローン元本返済
- 管理費・修繕積立金
- 固定資産税
- 空室時の持ち出し
- 設備交換費
- 売却費用
- 売却時の譲渡所得税
どれくらいの年収から節税を意識すべき?
税制上、「年収○万円以上なら不動産投資で節税すべき」という基準はありません。
見るべきなのは年収そのものより、課税所得、限界所得税率、現在使える控除、投資後の税引後CFです。
目安として制度を理解するうえでは、次の数字が参考になります。
- 給与収入850万円以上:2026年分では給与所得控除が195万円で上限
- 課税所得330万円以上:所得税の税率帯が20%
- 課税所得900万円以上:所得税の税率帯が33%
同じ損益通算可能額でも、限界税率が高い人ほど所得税への影響額が大きくなる場合があります。ただし、これは不動産投資を推奨する基準ではありません。
年収1,000万円の会社員を具体例にした計算は、年収1,000万円なら不動産投資で節税できる?でケーススタディとして分けて検証しています。
高所得層は税率だけでなく家計制度も確認する
高所得層では、不動産投資による税効果だけでなく、住宅ローン控除や教育費支援などの所得要件も家計全体で確認する必要があります。
住宅ローン控除は「年収」ではなく合計所得金額で判定します。国税庁の案内では、一般的な要件として合計所得金額2,000万円以下、40㎡以上50㎡未満の一定の住宅では1,000万円以下とされています。対象住宅や居住年など、ほかの要件もあります。
奨学金についても「高年収なら利用できない」と一括りにはできません。JASSOの制度は、住民税情報や世帯人数・家族構成などに応じて家計基準が決まり、制度ごとに要件が異なります。多子世帯の授業料等減免には所得制限を設けない支援もあります。
不動産投資の節税効果だけを切り出さず、家計全体の制度への影響を確認してください。
不動産投資の節税で失敗しやすい5つの考え方
- 節税額だけで投資判断する
- 不動産所得の赤字は全部損益通算できると思う
- 減価償却は現金が増える制度だと思う
- 売却時の譲渡所得税を考えない
- 空室・家賃下落・金利上昇を入れずに計算する
判断の順番は、税効果を最初に置くのではなく、物件そのものの収支から始めます。
具体例|「年間50万円節税」でも得とは限らない
例えば、次のようなケースを考えます。
- 年間税引前CF:▲80万円
- 税効果:+50万円
- 税引後CF:▲30万円
税金が50万円減ったとしても、年間30万円の現金持ち出しが残っています。単純に10年間続けば、税引後CFだけで▲300万円です。
さらに売却時には、ローン残債、売却費用、譲渡所得税を差し引いた手取りを確認する必要があります。
一方、税引前CFがプラスまたは小幅マイナスで、売却後まで含めた最終利益がプラスになるケースもあります。そのため「節税=悪」と決めつけるのでもなく、投資全体の数字で判断することが重要です。
よくある質問
年収1,000万円なら不動産投資で節税した方がいいですか?
年収だけでは判断できません。課税所得、物件CF、減価償却、借入条件、売却条件まで確認します。
不動産投資で住民税も安くなりますか?
損益通算などによって所得が減れば、翌年度の住民税所得割に影響する場合があります。所得税とは控除額や反映時期が異なります。
赤字が大きいほど節税できますか?
税負担の軽減額には限界があります。土地取得借入利息に相当する損失など損益通算できない部分もあり、現金赤字が増えれば投資成績は悪化します。
減価償却が大きい物件ほど得ですか?
保有中の税効果が大きくなる場合はありますが、売却時には建物の取得費が低下し、譲渡所得が増える可能性があります。保有中と売却時を一体で確認します。
所得税率33%なら100万円の赤字で33万円戻りますか?
単純にはそうなりません。損益通算可能額、課税所得の税率帯、復興特別所得税、住民税、各種控除などを考慮します。
まとめ
- 節税とは税負担が軽くなる可能性であり、投資利益そのものではない
- 所得税は年収ではなく課税所得に応じた累進課税
- 不動産所得の赤字は一定条件で給与所得などと損益通算できる
- 土地取得借入利息に相当する損失部分など、損益通算できない部分がある
- 税効果と税引後CF、売却税、最終利益をセットで確認する
不動産会社から「節税できます」と説明を受けた場合は、節税額だけではなく、無料Excelでキャッシュフローと売却後の手取りまで試算してから判断してください。