不動産投資の営業資料では、「管理物件の入居率99%」「高い入居率だから空室リスクが低い」といった数字が示されることがあります。
99%という実績そのものが直ちに問題なのではありません。重要なのは、その99%が何を分母・分子にして、いつ、どの物件群を対象に計算された数字なのかです。
区分マンションを1戸購入する人にとって、会社全体の入居率が高くても、自分の1戸が退去後30日空室になれば、その期間の家賃収入は原則として止まります。募集のための広告費やフリーレント、原状回復費が加わる場合は、影響は空室1か月分だけではありません。
先に結論|99%より算定条件を確認する
入居率は、算定方法をそろえなければ会社間で単純比較できません。
例えば「ある月末時点で1,000戸中990戸が契約中」であれば、その時点の入居率は99%です。しかし、その年に退去した戸数や、退去から次の賃料発生までの日数は、この1日時点の数字だけでは分かりません。
購入前に確認したいのは、「99%は高いか低いか」よりも次の質問です。
- 何戸を対象にしているか
- 新築直後・募集中・リフォーム中の部屋を分母に含むか
- どの地域、築年、間取りを含むか
- いつからいつまでの数字か
- 契約済みだがフリーレント中の住戸をどう扱うか
- 退去から次の賃料発生までの平均・中央値は何日か
回答を数字と資料で確認できれば、営業資料の入居率を収支へ使える情報に変えられます。
入居率は計算方法で見え方が変わる
「入居率」には、営業資料や管理資料で異なる考え方が使われることがあります。以下は公的に統一された名称・算式を示すものではなく、購入前に数字を分解するためのSmart Selectの確認用分類です。
| 確認用分類 | 考え方 | 分かること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 時点入居率 | 特定日時の入居戸数 ÷ 対象戸数 | その瞬間の稼働状況 | 年間の空室日数を反映しない |
| 日数ベース稼働率 | 入居していた延べ日数 ÷ 稼働可能な延べ日数 | 空室期間を含む年間稼働 | 対象期間・除外住戸の確認が必要 |
| 賃料実現率 | 実際の賃料入金 ÷ 満室時に得られる賃料 | 収入への影響 | フリーレント・滞納等の扱いを確認 |
例えば1,000戸を管理する会社で、月末時点の空室が10戸なら時点入居率は99%です。一方、1年間の途中で入退去が多く、各住戸に空室期間があれば、年間の日数ベースの稼働率や実入金は別の数字になります。
したがって、広告や営業資料の99%を収支シミュレーションへそのまま入れる前に、算式と集計対象を確認することが必要です。
1戸の投資では空室日数の方が収支に直結する
区分マンション1戸では、会社全体の入居率より「1年間に何日、賃料が発生しないか」の方がキャッシュフローへ直接反映できます。
1戸を365日貸せる前提で、空室日数だけを変えると次のようになります。
| 年間空室日数 | 日数ベースの稼働率 | 月額家賃10万円なら空室による家賃減少の目安 |
|---|---|---|
| 0日 | 100.0% | 0円 |
| 7日 | 98.1% | 約2.3万円 |
| 14日 | 96.2% | 約4.7万円 |
| 30日 | 91.8% | 約10.0万円 |
| 60日 | 83.6% | 約20.0万円 |
※家賃減少は1か月を30日として単純化した説明用の概算です。実際は賃貸借契約の開始・終了日、日割り条件などで変わります。
この表から分かるのは、1戸で年間99%に近い稼働を実現するには、空室を年間数日程度に抑える必要があるということです。会社全体の99%と、特定の1戸が毎年ほぼ空室なく稼働することは同義ではありません。
会社全体の99%と購入物件の空室リスクは別
管理会社の入居率は、その会社の管理ポートフォリオ全体を示している場合があります。
例えば1,000戸のうち990戸が入居中なら99%です。しかし購入を検討している1戸について知りたいのは、次のようなより近いデータです。
- 同じマンションの過去の退去・募集履歴
- 同じ駅、近い築年・面積の管理物件の空室日数
- 同じ賃料帯の募集から申込までの日数
- 賃料を下げずに決まったのか、条件変更後に決まったのか
- サブリースを含む戸数と通常管理の戸数を分けた数字
総務省の住宅・土地統計調査は、全国や地域の住宅・空き家の状況を把握する重要な公的統計です。ただし、調査上の空き家には用途別の区分があり、国や都道府県の空き家率を、そのまま特定マンション1戸の将来空室率として使うことはできません。 マクロ統計と対象物件の運用実績は分けて確認します。
フリーレント・募集費まで含めて実入金を見る
「次の入居者が決まった日」と「次の家賃が発生する日」が同じとは限りません。
募集条件としてフリーレントを付ける場合や、賃貸仲介会社への広告料、原状回復費が必要になる場合、オーナーの実質的な負担は空室家賃だけではありません。
説明用に、月額家賃10万円の1戸で次の条件を仮定します。
- 退去後の空室:30日
- フリーレント:1か月
- 募集時の広告費:家賃1か月分
- 原状回復のオーナー負担:8万円
| 項目 | 説明用金額 |
|---|---|
| 空室による家賃減少 | 10万円 |
| フリーレント | 10万円 |
| 広告費 | 10万円 |
| 原状回復 | 8万円 |
| 合計影響 | 38万円 |
これは一般的な相場を示す数字ではなく、空室時の費用構造を理解するための仮定例です。
重要なのは、「何日で次の入居者が決まったか」だけではなく、退去から次の賃料発生までの実収入と、募集・原状回復に支払った費用を同時に見ることです。
金融庁が過去に確認した入居率・賃料の問題事例
入居率や賃料を確認する必要性には、過去の行政上の事例という根拠もあります。
金融庁は2018年のスルガ銀行に対する行政処分で、投資用不動産融資に関連し、不動産関連業者が賃料や入居率を実勢・実績より高く想定または改ざんし、その数値を用いた評価により不動産価格が割り増された事例を確認したと公表しています。
また、2019年には投資用不動産向け融資について金融機関への横断的なアンケート調査結果を公表し、賃貸事業が生み出すキャッシュフローを主たる返済原資とし、長期的な事業・収支計画の妥当性を見極める重要性を示しています。
これらは過去に確認された特定事例であり、現在「入居率99%」を掲げる会社一般に不正があるという意味ではありません。一方で、購入者側が営業資料の率をそのまま信じるのではなく、実績の定義と裏付けを確認する合理性を示しています。
営業担当者に確認する8項目
営業担当者へ「入居率は本当ですか」と聞くだけでは、確認になりません。次の8項目を具体的に依頼します。
| No. | 確認項目 | 営業担当者への確認 |
|---|---|---|
| 1 | 算定式 | 99%はどの式で計算していますか |
| 2 | 対象戸数 | 分母は何戸で、除外している住戸はありますか |
| 3 | 対象範囲 | 全管理物件ですか。地域・ブランド・築年の限定はありますか |
| 4 | 集計期間 | 月末時点、月平均、過去12か月のどれですか |
| 5 | 退去実績 | 対象物件・同一マンションの直近の退去日はいつですか |
| 6 | 空室日数 | 退去日から次の賃料発生日まで何日でしたか |
| 7 | 募集条件 | 家賃変更、広告費、フリーレントは使いましたか |
| 8 | 実入金 | 直近12か月のオーナーへの実入金額はいくらですか |
- 算定式99%はどの式で計算しているか確認する
- 対象戸数分母は何戸で、除外している住戸があるか確認する
- 対象範囲全管理物件か、地域・ブランド・築年の限定があるか確認する
- 集計期間月末時点、月平均、過去12か月など、いつの数字か確認する
- 退去実績対象物件・同一マンションの直近の退去日を確認する
- 空室日数退去日から次の賃料発生日まで何日だったか確認する
- 募集条件家賃変更、広告費、フリーレントの有無を確認する
- 実入金直近12か月のオーナーへの実入金額を確認する
8番まで確認すると、入居率という抽象的な率を実際のキャッシュフローへ変換できます。
空室30日の影響を説明用ケースで再計算
購入前の収支表が満室前提なら、少なくとも空室日数を変えたケースを追加します。
以下は説明用の仮定です。
- 月額家賃:10万円
- 年間満室家賃:120万円
- ローン返済:年90万円
- 管理費・修繕積立金・税・保険等:年24万円
- 募集費・原状回復費はこの表では別途
| ケース | 家賃収入 | 年間手残り |
|---|---|---|
| 満室 | 120万円 | +6万円 |
| 空室14日 | 約115.3万円 | 約+1.3万円 |
| 空室30日 | 110万円 | -4万円 |
| 空室60日 | 100万円 | -14万円 |
※14日の家賃減少は、月額10万円÷30日×14日で約4.7万円として単純計算しています。税引前の概算で、実際の契約条件とは異なります。
このケースでは、満室なら年間+6万円でも、空室30日だけで年間収支はマイナスになります。さらに募集費、フリーレント、原状回復があれば持ち出しは増えます。
営業資料を検証するときは、不動産投資の収支シミュレーションと投資用ローンのストレステストも同じ前提条件で確認してください。
Smart Selectの判断方法
「入居率99%」を見たときは、次の3段階で判断します。
1. 比較できる数字
- 算式が示されている
- 対象戸数と集計期間が明確
- 対象物件に近い管理実績がある
- 空室日数と実入金まで確認できる
この状態なら、収支シミュレーションへ反映できます。
2. 追加確認が必要な数字
- 99%という結果だけで算定式がない
- 「当社管理物件」としか書かれていない
- 月末時点か年間平均か分からない
- 退去後の募集条件が分からない
この場合は、率を否定するのではなく、前提を確認します。
3. 収支へ使わない数字
- 対象期間・母集団を確認できない
- 対象物件の実績と関係が説明されない
- 実入金や空室日数を確認できない
- 「99%だから空室は考えなくてよい」と説明される
この状態なら、営業資料の99%を将来収支の前提にせず、空室30日・60日など複数ケースで再計算する方が安全です。
1社の数字だけでは比較しにくい場合は、同じ「算定式・対象戸数・空室日数・募集条件」の4項目で複数社の説明を並べると、違いを確認しやすくなります。
よくある質問
入居率99%なら空室はほとんど起きないと考えてよいですか?
そうとは限りません。会社全体の入居率と個別1戸の退去・空室は別です。対象物件の過去の空室日数を確認し、30日・60日などのケースで収支を再計算します。
入居率は何%以上なら安全ですか?
一律の基準はありません。率の高さより、算式、対象範囲、集計期間、対象物件に近い実績を確認する方が重要です。
募集期間が短ければ安心ですか?
募集開始日の定義や、申込後のフリーレントによって実入金までの日数は変わります。退去日から次の賃料発生日までを確認してください。
全国の空き家率を物件の空室率に使えますか?
そのまま使うことはできません。住宅・土地統計調査は住宅市場全体を把握する統計で、特定のマンション1戸の募集条件や将来空室を直接示すものではありません。
まとめ
不動産投資の「入居率99%」は、数字が高いこと自体を評価する前に、何を99%と計算したのかを確認します。
購入前に見るのは次の5点です。
- 算定方法
- 対象戸数・物件範囲
- 集計期間
- 退去から次の賃料発生までの空室日数
- フリーレント・募集費を含めた実入金
会社全体の入居率は管理力を見る一つの材料ですが、対象物件の収支は、対象物件または条件の近い物件の空室日数と実入金で再計算します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。掲載した計算例は説明用の仮定であり、特定物件の将来の入居率・賃料・収益を予測または保証するものではありません。