「東京都は人口が増えているから、都心の投資用マンションなら空室になりにくい」と説明されることがあります。しかし、人口統計だけで空室期間や入居率を判断するのは危険です。

この記事では、東京都の人口・世帯・外国人人口・家賃・賃貸市場データを分けて確認し、単身向けマンション1戸を10年間保有した場合の退去回数と空室日数を試算します。

先に結論:平均空室率ではなく物件単位で見る

指標意味注意点
空室率保有戸数・面積のうち空いている割合調査対象と集計時点を確認
入居率保有戸数・面積のうち入居中の割合月末時点だけでは空室日数を把握できない
募集期間募集開始から成約まで退去から募集開始までを含まない場合がある
稼働率一定期間の賃料発生日数の割合フリーレント・滞納・日割りを反映する

入居率99%でも、退去直後から再入居までの空室が含まれていない可能性があります。入居率と年間稼働率は分けて確認します。

東京都の賃貸需要を人口・世帯から確認

東京都の人口・世帯に関する数字は、次のように分けて確認します。人口総数は賃貸戸数ではないため、単身世帯や世帯数の変化を合わせて見ることが必要です。

統計項目基準時点数値投資判断での読み方
東京都の人口2026年1月1日14,077,552人賃貸需要の大きさを考える土台。ただし賃貸戸数とは別
日本人人口2026年1月1日13,293,851人国内居住者の母数
外国人人口2026年1月1日783,701人単身・就業者・留学生の需要候補。入居率を直接示さない
人口の前年差2026年1月1日+75,018人増加傾向を示すが、地域・年齢・世帯構成を分けて確認
一般世帯数2035年768.3万世帯予測上のピーク
一般世帯数2045年760.6万世帯ピーク後も世帯数は大きく残るが、減少方向
1世帯当たり人員2020年 → 2045年1.92人 → 1.79人世帯の小規模化。単身向け需要の検討材料

出典: 東京都|住民基本台帳東京都|東京都世帯数の予測

東京都の人口、外国人人口、世帯数予測、1世帯当たり人員を比較した統計グラフ
東京都の人口・外国人人口・世帯数予測を、賃貸需要の土台として比較した図。人口増加だけで入居率を断定しません。

人口が減る前に世帯が小規模化するため、18〜30㎡程度の単身向けには需要の土台が残りやすいと考えられます。ただし、家賃が高すぎる物件では郊外へ需要が流れる可能性があります。

人口と転入から世帯数、単身世帯、物件条件、問い合わせ、成約日数、空室日数へ確認するフロー図
人口統計を空室率に直結させず、物件条件と募集・成約の実績まで順番に確認します。

外国人人口は需要を支えるのか

東京都の外国人人口は2026年1月時点で783,701人で、前年の721,223人から増加しました。外国人の年齢構成では25〜29歳が多いと東京都は説明しています。東京都|外国人人口

若年の外国人就業者・留学生は単身向け賃貸の需要を支える可能性がありますが、入居率へ反映するには、保証会社・多言語募集・法人契約・退去時対応が必要です。

確認項目見る内容
保証会社外国籍・在留資格への対応
募集多言語募集・法人契約・学校との接点
支払い口座・カード・海外送金への対応
退去原状回復・連絡・残置物対応

外国人人口の増加だけで空室期間を短縮できるとは限りません。

東京都の家賃はどう動いているか

アットホームの2025年11月調査では、東京23区のマンション募集家賃は、シングル向きで18カ月連続、全面積帯で5カ月連続、調査上の最高値を更新しました。アットホーム|2025年11月募集家賃動向

LIFULLの2025年4月レポートでも、東京23区のシングル向き掲載賃料は前年同月比113.5%でした。LIFULL|2025年4月賃料動向

日管協短観の第28回調査でも、2023年度の首都圏では成約賃料の「増加」回答が全体で61.9%、1R〜1DKでも51.3%でした。これは賃料の変化を管理会社がどう見たかを示すDI型の調査で、東京都の成約賃料を直接集計した平均値ではありません。日管協短観|第28回

賃料データ数値・動きデータの性質注意点
アットホーム・東京23区シングル向き18カ月連続で調査上の最高値を更新募集家賃の動向募集家賃であり、成約家賃とは異なる
LIFULL・東京23区シングル向き前年同月比113.5%(2025年4月)掲載賃料の前年同月比掲載条件・集計対象を確認
日管協短観・首都圏全体成約賃料「増加」回答61.9%管理会社回答のDI平均賃料ではない
日管協短観・1R〜1DK成約賃料「増加」回答51.3%管理会社回答のDI東京23区単独の数字ではない

募集賃料と成約賃料は異なります。家賃を上げても、値下げ・フリーレント・広告料の増額が発生すれば実収入は下がります。営業資料では、募集賃料ではなく直近の成約賃料と成約日数を確認します。

公式データのグラフで見る賃料推移

アットホームによる2025年11月の全国主要都市の平均募集家賃前年同月比グラフ
出典:アットホーム「2025年11月 全国主要都市の募集家賃動向」。募集家賃は賃料・管理費・共益費等を含む同社定義で、成約家賃や空室日数ではありません。
LIFULL HOME'Sによる東京23区などのシングル向き掲載賃料の時系列グラフ
出典:LIFULL HOME'Sマーケットレポート2025年4月。掲載物件の平均賃料を示すグラフで、成約賃料とは異なります。

グラフは出典元の調査定義・対象期間に基づくものです。物件の判断では、同じ駅・面積・築年数の成約賃料と成約日数を別途確認します。

東京都の入居率をどう考えるか

物件条件需要の特徴空室リスク
都心5区・駅徒歩5分以内・18〜30㎡単身・法人・外国人の需要が重なりやすい家賃と競合で差が出る
23区・駅徒歩10分前後・20〜30㎡需要はあるが比較対象が多い募集条件の影響が大きい
駅徒歩15分超・築古・高家賃入居者の選択肢が増える長期空室になりやすい
30〜50㎡・都心・駅近単身・カップル・法人需要家賃総額が郊外競合を生む

日管協短観の第28回(2023年度、管理会社699社回答)では、首都圏の入居率は委託管理97.1%、サブリース96.6%でした。平均居住期間は首都圏全体で4年2か月、単身3年3か月、ファミリー5年3か月です。日管協短観|第28回

ただし、日管協短観の入居率は管理戸数ベースの年度調査であり、東京23区の投資用マンション1戸の空室日数ではありません。97.1%から「1戸あたり年間10.6日空室」と単純換算するのは避けます。退去時の空室、募集前の期間、フリーレントなどが同じ定義で含まれるとは限らないためです。

首都圏の入居率と平均居住期間を比較した棒グラフ
日管協短観の首都圏データ。東京都単独ではなく、首都圏の管理会社回答を集計しています。

日本情報クリエイトのCRIXでは、2025年6月の東京23区について、2024年以降改善してきた賃貸住宅の空室率が底打ちした可能性と、一部面積帯で支払い賃料が弱含んだことが示されています。CRIX指標

需要が強い地域でも、家賃を上げ続ければ入居者が離れる可能性があります。

空室が埋まるまで何日かかるのか

タスのデータを紹介する東急リバブルの記事では、2025年5月の東京23区の平均「募集期間」は4.42か月、単純換算で約135日とされています。東急リバブル|タス資料の紹介

ここでいう募集期間は、募集開始から成約までの期間です。退去から募集開始までの空白、申込後の審査・契約、フリーレントの扱いを含むかは資料の定義を確認する必要があります。したがって、4.42か月をそのまま「東京23区の1戸あたり空室期間」として掲載するのは不正確です。

また、日管協短観は入居率や平均居住期間を示しますが、空室日数を直接集計していません。現時点で確認できる資料から、東京23区の投資用マンションについて唯一の平均空室日数を断定することはできません。

退去回数、募集開始、成約条件が実際の空室期間と収支試算に影響する相関図
空室期間は、退去・募集開始・成約までの流れを分けて確認します。
ケース空室期間の仮定位置づけ
強い物件30日駅近・相場内・募集開始が早い場合の試算
基準60日物件別成約実績がない場合の暫定値
長期化90日家賃調整・繁忙期ずれを含む感度分析
参考上限135日23区平均募集期間の紹介値。空室日数とは別概念

30〜90日は記事の試算条件であり、東京都全体の公式平均ではありません。個別物件では、同じ駅・面積・築年数の成約履歴に置き換えます。

10年間の退去回数と空室日数を試算

10年間の空室日数 = 10年間の退去回数 × 1回あたりの空室日数

ここで混同しやすい点があります。3年・4年・5年は、1回の退去から次の退去までの「平均居住年数」です。一方、30日・60日・90日・135日は、退去後に次の入居者が賃料を支払うまでの「1回あたりの空室日数」の仮定です。つまり、「3年のうち90日空室」という意味ではありません。

たとえば、平均居住年数3年・1回あたり空室90日なら、10年間の退去回数の期待値は 10年 ÷ 3年 = 約3.3回 です。各退去のたびに90日空室になると仮定するため、10年間の累計空室日数は 約3.3回 × 90日 = 約297日 になります。90日は、3年間に含まれる日数ではなく、退去後に毎回発生する空室期間です。

単身向けについては、日管協短観の首都圏平均3年3か月も参照値にできます。退去回数は公開統計から1戸ごとに確定できないため、期待値として計算します。

平均居住年数(退去間隔)10年間の退去回数(期待値)1回30日1回60日1回90日1回135日
3年3.3回99日198日297日445.5日
4年2.5回75日150日225日337.5日
5年2.0回60日120日180日270日

読み方の例として、平均居住年数4年・1回あたり空室60日の場合は、10年間の退去回数が約2.5回、累計空室日数が約150日です。月額家賃12万円なら、空室による単純な賃料停止額は 12万円 ÷ 30日 × 150日 = 約60万円 です。

空室損 = 月額家賃 ÷ 30日 × 空室日数
月額家賃空室75日空室150日空室225日空室337.5日
10万円約25万円約50万円約75万円約112.5万円
12万円約30万円約60万円約90万円約135万円
15万円約37.5万円約75万円約112.5万円約168.8万円

原状回復費、広告料、フリーレント、家賃値下げを加えると実質コストは増えます。

2035年以降の見通し

東京都の一般世帯数は2035年にピークを迎え、その後は減少する予測です。ただし、空室は人口減少だけで決まりません。将来的には、駅近・駅遠、低家賃・高家賃、築浅・築古、募集対応の速さで差が広がる可能性があります。

シナリオ需要家賃空室日数
強気単身・外国人・転入が維持年1%上昇30〜60日
基準世帯数ピークまで需要維持横ばい60日
弱気供給増・高家賃離れ・世帯減少年1%下落120〜180日

「東京だから安心」ではなく、同駅・同面積・同築年数の成約日数と、空室60日・90日・135日の感度を入れた収支を確認します。

営業資料・管理会社に確認する項目

  • 同じ駅徒歩・面積・築年数の直近12か月の募集件数
  • 募集開始から申込・契約までの日数の平均と中央値
  • 退去から募集開始までの日数
  • フリーレント・広告料・値下げの実績
  • 入居率の分母・分子・集計期間
  • 直近10年の退去回数と平均居住期間
  • 退去理由と入居者属性
  • 外国人・法人契約の対応条件
  • 家賃を5%下げた場合の収支

Smart Selectの判定

東京都は人口・世帯・外国人人口が大きく、都心の賃貸需要を支える土台があります。しかし、東京都全体の入居率だけでは個別物件の空室期間は分かりません。

Smart Selectの判定:東京都という地域名だけで判断せず、同駅・同面積・同築年数の成約日数と、空室60日・90日・135日の感度を入れた収支を確認してから比較する。

よくある質問

まとめ

東京都の賃貸需要は強い一方、すべての物件が短期間で埋まるわけではありません。10年保有では、1回の空室期間より、退去回数と空室日数の積み上げが手残りに影響します。

  1. 同条件の募集・成約事例を集める
  2. 退去回数を3年・4年・5年で試算する
  3. 空室30日・60日・90日・135日を入力する
  4. 原状回復・広告料・フリーレント・値下げを加える
  5. 金利上昇・修繕費増加と同時に手残りを確認する